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活動経緯

2008年4月19日 「第1回患者の声を医療政策に反映させるフォーラム」に100人参加
あり方検討会が初イベント

患者会有志で構成する「患者の声を医療政策に反映させるあり方検討会」(代表世話人:長谷川三枝子/日本リウマチ友の会会長、以下「あり方検」)が4月19日(土)、東京・日本橋の日本製薬工業協会会議室で「患者の声を医療政策に反映させるフォーラム」を開きました。

あり方検初の主催イベントで有料(参加費500円)、午前10時開始の雨模様だったにもかかわらず、会場は100人を超す参加者で満員の盛況となり、このテーマに対する関心の高さをうかがわせました。
まず、世話人松村満美子(腎臓サポート協会理事長)の司会で、長谷川代表からあり方検の設立経緯や今後の活動計画などの説明、あり方検への加入の勧めがありました。


長谷川代表

本題では、全国社会保険協会連合会の伊藤雅治理事長が「今一番重要なことは何か」、世話人海辺陽子(癌と共に生きる会副会長)が「患者代表としての患者会がなすべきこと」と題して問題提起しました。
それを受けて市民医療協議会の埴岡健一・共同議長がモデレーター役となり、参加者との対話・質疑応答を行いました。
埴岡氏は伊藤、海辺両氏の話を受けて、国民皆保険制度や医療基本法などについて、参加者の意見を聞いたところ、多くの人が制度の維持や法制定に賛成し、あり方検のめざす方向と概ね一致していることがわかりました。
予定の2時間は瞬く間に過ぎ、世話人小太刀進(埼玉県障害難病団体理事長)が「あり方検は今後もこの種の活動を展開する予定であり、皆様のご参加、入会をお待ちしています」とあいさつして閉会しました。フォーラム終了後、世話人らと参加者の意見交換が1時間近くも続きました。
伊藤、海辺両氏の話は以下の通りです。

「今一番重要なことは何か」 伊藤雅治(あり方検討会世話人/全国社会保険協会連合会 理事長/日本慢性疾患セルフマネジメント協会 理事長)

現在、後期高齢者医療制度が大きな社会問題になっていますが、これ自体は2006年度医療制度改革の一環として05年10月に厚生労働省の試案が出され、同年末には与党の医療制度改革大綱で決定。06年2月の閣議決定を経て、6月の医療制度改革関連法が成立、それに従って施行されたものです。
ところが、いざ実施になって大混乱が起きたのは、政策決定にあたり、患者・市民の参画がまったくなかったという点が背景あると思われます。
制度を審議した厚労省の社会保障審議会の医療保険部会には20人のメンバーで構成されましたが、医療提供者や学識経験者らで、患者・市民を代表する委員はゼロでした。
さらに、決定にあたっては公聴会やパブリックコメントの募集もなく、一般の人たちは何も知らされないまま、決まってしまいました。
これに対する厚労省の考えは「患者は制度の当事者ではないから」というものでした。言い換えると、専門家の間で議論すればいいという発想だったのです。それがいかにおかしな発想だったか、今回の混乱を見ているとはっきりわかります。

もう一つ、事例を挙げます。医療法では各地域における医療連携体制について、医師や看護師らの医療従事者だけでなく、患者や住民らも含めた協議を経て構築することを規定しています。
これに基づき、07年9月、厚労省は局長通知で、がんなど4疾患5事業の医療体制の構築に向けて、各都道府県の医療審議会の下に疾病ごとに作業部会を設け、医療計画を作成することとしています。
しかし、08年1月時点で、作業部会に患者・住民が含まれているのは、がんこそ30県にのぼりましたが、それ以外の脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、救急医療などについては軒並み15県以下の低調ぶりです。
しかも、千葉、神奈川両県のように全分野に患者・住民が入っている県もあれば、全て入っていない県もあるなど、取り組みに大きなバラつきのあるのが特徴です。

このように、医療政策に偏りが生じるのは、患者・住民の声を反映させるきちんとしたシステムが整備されていないからです。
そこで、私は1.患者・市民の代表も参加して議論する「医療制度基本問題審議会」(仮称)の設置、2.審議会委員の人選や任命について患者・市民代表を参加させるルールの確立、3.パブリックコメントの実施方法の改善、4.インターネットによる審議内容の公開など、審議会の運営改善、の4点を行政に提言します。
同時に、患者・市民に対しては、1.患者会への支援機能を持った横断的組織の立ち上げ、2.政策形成に向けた外部協力者との連携強化、の2点を提言します。

「患者代表としての患者会がなすべきこと」海辺陽子(あり方検討会世話人/癌とともに生きる会 副会長/がん対策推進協議会委員)

まず、患者の声を医療政策に、という背景ですが、右肩上がりの経済成長が終わり、医療費が抑制されるようになったことと大きな関係があります。近年目覚しく進歩した領域の疾患においては、医学の限界と制度の限界のギャップが、患者の容認できる範囲を超えてしまったということではないかと思います。私がかかわっているがんの場合、1.医療水準などの地域格差や施設間格差が縮まらない、2.新薬承認が欧米よりはるかに遅い「ドラッグラグ」が解消されない、3.専門医不足が解消されない――など、当たり前のことが当たり前に進まないもどかしさから、私の会の歴代会長は、患者の声を政策決定の場に反映させなければならないという主張にいたりました。
「患者代表者のあるべき姿」について、自分のことは棚に上げて、実際に、「がん対策推進協議会」に患者・家族の代表委員の1人として参加した体験等を通じ、思うことをお話します。
まず、患者代表者は、こうした場に患者代表者が参加できるようになった価値を理解し、「患者の声など聞く必要なし」と考える勢力、患者代表の参加を“アリバイ”作りに利用しようという勢力があることを認識する必要があります。
また、「代表者」というのは個人的な体験を語ったり、個人的な主義主張を押しつける者ではなく、あくまで「領域全体の利益」「患者の利益」を常に意識した言動を心がけ、明確な目的のために行動する必要があります。
そのためには、議論の相手が誰で、会合の目的は何かということを意識し、相手の信頼を得るための“共通言語”を理解してやりとりすることが必要だと感じます。
日本では、患者が医療を選択し、決定に責任を持つという「患者中心の医療」は始まったばかりで、患者会は、そのような患者をサポートする体制を整えなければなりません。また、患者会は、人材育成、他団体との連携、一般の関心の喚起といった課題にも、取り組まなくてはなりません。
ご参考までに、米国を例に取ると、専門度が高い研究を市民が監視するCARRA(研究分野・消費者参加協力制度)や、がん治療薬開発・患者コンサルタント制度といったものがあります。また、一般市民の医療や政治への関心も高く、2006年には、一度は廃案になった医療関連の70億ドルの連邦予算の復活を、がん患者支援団体がホームページなどを使って呼びかけた結果、患者をはじめとする一般市民が48000通にも及ぶ意見書を議会に送り、その予算を復活させることができた、ということも実際にありました。
これに対して、日本では一般市民の無関心が目立つように思います。「どうせ変わらない」という無力感や、市民活動に対するイメージの問題などが背景にあるため、ではないでしょうか。
そこで、医療政策決定の場に患者代表を送り出すには、1.資格要件の確立など、しっかりした仕組みづくりが大切、2.意見集約などのバックアップ体制の構築、3.目的意識の明確化、4.まず行動することが重要だが、他者批判はダメ――といった原則を明確することが大切ではないかと思います。
5年後、10年後を見据え、やっと出てきた“芽”を枯らさない環境整備や、患者以外の人たちにも応援してもらえる雰囲気づくりカギになるでしょう。(文責 世話人 本間俊典)