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活動経緯

2009年7月25日
総会で08年度報告と09年度計画を承認
辻教授が特別講演「いまなぜ患者の声が必要か」

  第2回総会・特別講演会は7月25日(土)、東京・全社連研修センターで開かれました。総会では世話人会(事務局)が提出した議案がすべて原案通り承認されました。続いて、東大高齢社会総合研究機構の辻哲夫教授(元厚生労働事務次官)をお招きし、「いまなぜ患者の声が必要か」と題して特別講演をいただき、約50人が耳を傾けました。 (文責・本間俊典)

 

1.総会


09年度事業計画などが承認された第2回総会

 総会は、正会員21団体のうち出席13団体、委任状6団体、欠席2団体で、会則によって成立。長谷川世話人代表が「お陰さまで1年間、有意義な活動ができました。2年目は会員を増やし、さらに充実した活動を展開します」と挨拶しました。

 議案は2008年度事業報告と同会計・監査報告、2009年度事業計画と同予算、役員選出の五つ。埴岡、海辺両世話人から説明があり、満場一致で承認されました。また、役員についても、長谷川代表以下8人が引き続き世話人を継続することが決まりました。

【08年度活動の総括】

(1)患者の声・協議会の立ち上げ年度だったことから、活動の運営や資金面などで試行錯誤が続き、会員・賛助会員の皆様への情報提供などが必ずしも十分でなかった点は反省材料です。事務局も、世話人や関係者による無給活動で何とか乗り切りました。

(2)その中で、年間テーマを「医療基本法の制定」と決め、各党国会議員の参加を実現し、マニフェストに盛り込むよう議論を展開するなど、一定の成果を上げることができました。
  これについては、近く実施される総選挙にあたり、各党のマニフェストを注視、検証していきたいと考えています。
  PDFファイル「写真と報道に見る1年目の歩み」をご参照下さい。

【09年度活動のポイント】

(1)勉強会は年5回(辻教授の講演を含めると年6回)予定していますが、医療政策に関するタイムリーなテーマを選ぶ計画です。まず、9月26日に「診療報酬」がどんな過程で決まり、どんな問題があるかを勉強します。ご希望のテーマがありましたら、どしどし事務局へご提案ください。

(2)メールマガジンをリニューアルして、患者の声・協議会の活動報告や案内などを含めたコンテンツを定期配信、ウェブサイトに連動するよう改善を図ります。

(3)会の活動目的を広く社会に知ってもらうため、政策立案者やジャーナリストなどの医療ステークホルダーへの告知を活発化して、会員との交流会を開く計画です。

(4)事務局体制の強化に向け、勉強会の案内事務などをお手伝いしてくださる方を探しています。非常勤でもOKです。世話人会メールへご連絡いただければ幸いです。

 ・2008年度事業報告(PDFファイル)

 ・2009年度事業計画(PDFファイル)

 

2.辻教授の特別講演要旨


記念講演する辻氏

「あるべき医療」のコンセンサスを 〜いまなぜ患者の声が必要か〜

東京大学高齢社会総合研究機構  辻 哲夫教授

 医療政策はいま、大きな転換点に差し掛かっています。患者、医療消費者としてどう考えればいいか、問題提起したいと思います。
  日本は今後、75歳以上の後期高齢者が増える超高齢社会になりますが、それも都市部で急増することが確実です。

 このため、「死に場所」の問題が問われます。戦後は1割強の方が医療機関で亡くなり、残りが自宅で亡くなりました。今は80%が病院です。病院信仰が強まった結果、死も病院で迎えることになりました。本当にそれで「生きて、死んだ」と言えるかどうか。死をどう迎えるか、真剣に考えるべき時代です。

 今後、医療は「治す」医療から死と向き合い、「生活、命を支える」医療への転換が求められるでしょう。経済成長を遂げて、長生きできるようになった国にふさわしいシステムを構築すべきであり、医療もその一環として変えていかなければなりません。

 今後は独り暮らし、夫婦二人暮らしの高齢家族が増え、同時に認知症の人も短期間に急増すると見込まれます。

 これに備えて、05年の介護保険改革では「介護予防」という考えを導入しました。寝たきりは防げる。「要介護」の前の段階を維持しよう。できる限りの元気と自立を維持しながら老いていき、個人個人の充実した時間を過ごしてもらうのが目的です。

 独り暮らしのお年寄りが食事の手抜きをすると一気に弱るといいますが、「生活力の維持」こそが最大の予防ではないかということです。これは薬も医療機器も使わない、医療というより社会システムの問題になりますが、そのことに気づいたという点で介護システムはこの20年ほどで大きく前進したと思います。

 患者は消費者、要望を出そう

 一方、医療については、医療費の伸びが著しく、無理に抑えるのはもう限界だと思いますが、それでも抑制が必要なら、そもそも医療費のあまりかからない社会をめざすべきであり、そこで生活習慣病への対策が軸足になります。ここでは運動と食事こそが「最善の治療」になります。

 病院は最前線の機能を発揮した治療をする場に徹するべきです。治療やリハビリを通じて治し、支える医療です。それで患者は生活力を回復して、再び家庭や施設に戻って日常生活を送ります。

 その場合、終末ケアを含むかかりつけ医療や在宅医療、医療機関同士の連携プロセスが重要になります。日ごろは「在宅主治医」など開業医がチームを組んでお年寄りを診ながら、急変時は病院が支えるというシステムです。

 いま「医師不足」が問題になっています。地域の病院を再編成、拠点化することが解決の一つの方法ですが、それだけでは十分ではありません。本来なら地域の開業医で十分なのに、病院に行く軽症患者も多く、ここを何とかしないと解消できません。

 根本的には、医療側が患者の需要に開業医が応じているか、という問題ではないかと思います。いわゆる専門医が増えた結果、腹が痛い、腕がしびれるといった簡単な診療さえ、“専門外”なのでよくわからないので自信がないという専門医が増えています。

 その人全体を診る決意と能力を持った家庭医の育成システムが重要であり、あわせて地域の開業医がいかにグループ化できるかどうかがポイントになります。もっとも、医師の教育構造がそうなっていないので、非常にむずかしい課題です。

 では、市民の願いに応える医療体制を構築するにはどうするか。私は、地域ごとの「あるべき医療」「医療ビジョン」についてのコンセンサスが必要ではないかと考えます。

 病院にどうして欲しいか。どんな機能を求めるのか。どう連携してほしいのか。家に帰ったら、どんな医師が欲しいのか……。いわば、「食べたいもの」を明確にしないと供給側はなかなか姿を現さないので、草の根的な市民の要望を展開することが重要です。

 ポイントは二つ。一つは教育システムのうえで重要なのが僻地医療で、そこに家庭医が育つ環境があります。もう一つは、都市部で病院と開業医の役割分担と、在宅医療のネットワークシステムが構築されれば、生活を支える良い医師の教育システムにつながると思います。

 患者側が「こういう医師が欲しい、こういうシステムが欲しい」と声を出すことがカギになるということを皆様に訴えます。